勝利の直前に、敗北の種が蒔かれた「郭開・姚賈・幽繆王、そして李牧処刑の真意」【キングダム考察】

李牧が処刑されたのは、敗北の責任を取らされたからではありません。
むしろ、勝利が目前に迫っていたからこそ、彼は葬られたのかもしれない。

長期化する戦いのなかで、趙は秦を退ける寸前まで追い詰めていました。
そのとき、秦の密偵・姚賈が郭開に告げます。

「このままでは李牧が国の英雄となり、王すら凌ぐ存在になる」と。

郭開はその言葉に動揺し、幽繆王の不安を巧みに煽りました。
「王の座を奪う前に、李牧を処刑すべきだ」と。

こうして趙葱と顔聚に指揮が引き継がれるが、
その瞬間から戦線は一気に崩れ、邯鄲は陥落への道を辿ることになるのです。

もし郭開が姚賈の罠に気づかず、「勝利の直前で英雄を恐れた」のだとすれば、
李牧の死は趙の滅亡ではなく、「勝利を恐れた政治の敗北」だったのかもしれません。

項燕と昌平君が最強の敵

戦いが「長引いた」ということの意味

『キングダム』においても、李牧と司馬尚が築いた防衛線は、秦国の侵攻を見事に押し返していくことになります。
これは史実で大きな部分なので変えられないものでしょう。

王翦・楊端和・李信・蒙恬・王賁・そして史実でも名前が出ている羌瘣らを擁する大秦の軍勢でさえ、趙の心臓である邯鄲を陥落させることはできず、戦線は長期化していました。
まずこれが史実です。

これまでに見た戦とは比べ物にならないほどの長期化です。

つまりこの時期、趙は「負けてはいない」どころか、
秦国側は補給線の疲弊、戦費の膨張、民の不満という「撤退を考えざるを得ない」段階に達していた可能性があります。

この状況を最も正確に把握していたのが、秦の密偵姚賈(ようか)です。

郭開は姚賈が自らの犬であると信じていましたが、実際には秦国側の密偵です。

姚賈の情報がもたらした“毒”

姚賈は、表向きは郭開の犬、裏では秦王政(後の始皇帝)の意向を担う諜報員と言っていいでしょう。

『キングダム』でも、彼の静かな一言が戦局を変える場面が登場することは確実であり、韓非子編を通じてわざわざスパイとしての力量を描いていました。

もし彼が郭開に接触し、
「李牧と司馬尚の防衛は見事です。今のままでは、いずれ秦も退かざるを得ない」
と耳打ちしたとしたらどうなるか。

それは趙にとっては朗報、しかし郭開にとっては悪夢だったのでしょう。

なぜなら、李牧が「防衛による勝利」を成し遂げれば、
その功績は王を凌ぐほどの民望を生みます。

すでに圧倒的な人気を誇る李牧です。
そして、幽繆王よりも「李牧こそが趙の真の王」という空気が、国中に満ちるのは確実です。

当然ながら李牧はそんな「私が王だ」なんてことはしませんが、王の周りに救う郭開派の妥当はあっという間に進んでしまうのは確実です。

そして、幽繆王も李牧人気を戦の直前に見ており、自身でも「王にふさわしい」という感情を潜在的に抱いてしまっていました。

郭開は自らの終わりを意味する李牧の大勝利を感じ取り、幽繆王もまた戦前から少し李牧に対しての感じ方が変わっていた。

郭開は、それらを姚賈の一言から悟ってしまったのです。
「勝ち戦は、王ではなく李牧のものになる」と。

郭開の誤算と大勝利を恐れた男

郭開の政治的嗅覚は鋭かったと言えるでしょう。
当然自らの保身に対しての嗅覚です。

彼は国を売るために動いたのではなく、「自分の地位を守るために国を動かした」と言えます。

このときの郭開の思考を整理すると、

「李牧が勝てば英雄になる。
 英雄になれば、幽繆王を超える。
 そうなれば、自分も幽繆王も用済みになる。
 ならば、李牧を今のうちに処刑し、
 “勝利の果実”を政治で取り戻すべきだ。」

つまり、郭開が恐れたのは「敗北」ではなく、「勝利の主役を奪われること」だったと言えます。

その点を王に回帰させるためには「李牧じゃなくても守れた」という事実が必要になったのでしょう。

幽繆王の内なる恐怖「王としての影」

郭開が幽繆王を籠絡できた理由も明快です。

『キングダム』でも描かれている通り、幽繆王は李牧に対して、「自分よりも王にふさわしい男」としての劣等感と恐怖を抱くことになりました。

しかもそれは戦の直前。

当然ながら李牧がいなければ国を守ることは出来ません。
幽繆王はとんでもないクズに見えますが、ああ見えてそれなりに頭は切れる人物と言えます。

よって、「嫌いだから殺してしまえ」という目の前のことしか考えない即物的な存在ではありませんでした。

王都を守る兵も防衛戦に駆り出させたのは、その意味もあったでしょう。
また直前に「王は誰か」と尋ねているのも、この現れと言えます。

つまり「李牧は王に取って代わる」なんてことはしないだろう、と思いながらも王としてのふさわしさは李牧にあることを潜在的に感じ取っている疑念。

姚賈の讒言、郭開の甘言、民の声。
それらが三つ巴のように絡み合い、幽繆王の中に「李牧が自分の玉座(また今の王としての振る舞い)を奪うかもしれない」という被害妄想を生んでいきます。

郭開はその心理を巧みに利用した。
「陛下、李牧はすでに王のように振る舞っております。
 国を救うため、いま一度、王の威をお示しください。」

この一言で、歴史は決定的に動いたのではないでしょうか。

しかも秦国に対しての防衛勝利は目の前となれば、ここで李牧を外しても問題はなく、また秦国はすべてを賭けて挑んでいるのですから、ここから平穏な日々としてまた傍若無人な王としての振る舞いを継続できると考えたのではないかと推察されます。

李牧の史実は処刑!カイネと傅抵に託す

趙葱と顔聚に引き継がれた勝利の残り火

李牧と司馬尚の防衛線は、すでに完成していました。

郭開としては、李牧を排除しても「戦線はそのまま維持できる」と考えてもおかしくありません。

実際、趙葱と顔聚には「同じように防戦を続けよ」との指令が下ったと推測されます。

郭開の頭の中では、こうしたシナリオが描かれていたはずだ。

「李牧を処刑しても、戦線は動かぬ。
 いずれ秦軍は補給を絶たれて撤退する。
 そのとき、趙は勝つ。だが英雄は王と朝廷。
 李牧はいない。完全な政治的勝利だ。」

この誤算が、趙を滅ぼすことになりました。

実際には、李牧の死によって趙軍の士気は崩壊。
また実は拮抗状態でギリギリの対応をしていた李牧と司馬尚。

防衛の指揮系統は乱れ、秦軍は一気に邯鄲へと雪崩れ込む結果になります。

郭開の描いた「防戦による勝利」は、「英雄なき崩壊戦」へと変わっていきました。

郭開の「勝利の定義」と、姚賈の狙い

興味深いのは、この一連の流れが、姚賈にとっては「完全な成功」だったという点でしょう。
要するに武人だけの勝利ではなく、謀略も含めた秦国全体での戦いだったことを示しています。

文字通りの総力戦で趙、いや李牧に挑んだということです。
それほどに強大な敵だったことが分かります。

李牧が以前嬴政の前で宣ったように、事実として「誰も李牧には勝てない」という真実。
それが真であったことの証明かもしれません。

姚賈は秦の間者として、戦場ではなく「政治の中枢」を破壊することに成功しました。

郭開の野心と幽繆王の不安を刺激し、李牧を葬らせた。
結果として、趙の防衛線は崩壊し、邯鄲陥落への道が開かれた。

つまり
郭開は、勝利を守ろうとして国を滅ぼし、
姚賈は、言葉だけで一国を滅ぼした。

この構図こそが、戦国末期のリアルであり、『キングダム』が描く「知略の恐ろしさ」の本質だと感じます。

「勝利の直前で滅びる」という皮肉

趙葱と顔聚が引き継いだのは、もはや「勝利の戦」ではなく「形骸化した命令」でした。
本人たちも気付いていたのではないかという気がします。

それとも武将としてのプライドによって「俺にだってあのくらいはやれる」と少しでも思っていたのか。

郭開の想定では、粘れば秦は退く。
しかし、士気を失った軍が「粘る」ことなどできるはずがありません。

李牧の死は、戦略の崩壊ではなく、「国の魂の死」でした。

郭開の誤算。

「英雄を恐れた政治が、国を殺す」
という人類史に繰り返される皮肉そのものでしょう。

趙葱と顔聚は単なる敗将ではなく、
「郭開の幻想」を現実で背負わされた悲劇の操り人形だったことになります。

そしてその背後で微笑んでいたのは、
戦場ではなく情報戦で趙を崩壊させた男、姚賈だったと言えそうです。

キングダムでは李信が李牧を討つのを心待ちにしている人もいますが、果たしてどのように描かれるのか。

趙戦の開幕そのものはキングダム853話から始まっています。

予想としては、ここから100話~150話ほどは描かれるのではないかと思われています。

となれば3年~4年は趙の最後の攻防戦が描かれることになりそうです。

王賁は史実で四カ国を滅ぼす



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