チェンソーマン考察|世界はループしていた説。白枠のコマと黒枠のコマの関係
チェンソーマンは第1話を読んでもわかる通り現在を表す「白枠のコマ」と過去を表す「黒枠のコマ」から物語が構成されています。
現在と過去を交互に描写することで物語における設定や辻褄をわかりやすく表現しているわけです。
物語の流れを読者に対してスムーズに理解させることに成功しています。
同時に「読みやすさ」が優れていることで読者は細かい箇所を見落としてしまいます。
チェンソーマン世界における「現在」と「過去」。
熟読してみるといくつか不可解な点が浮かび上がってきました。
「黒枠のコマ」は回想に見せかけた別世界の話だった
「黒枠のコマ」を単なる回想シーンとして読んだ場合、いくつか不自然な点があります。
例を挙げると、荒井が銃殺されるシーンです。
「黒枠のコマ」に入る直前、頭を銃撃されて絶命した荒井の死体が描かれています。
対して回想であるはずの「黒枠のコマ」の荒井は、頭に加えて、喉も撃たれて死んでいます。
「白枠のコマ」にて描写された荒井と辻褄が合いません。
また荒井絶命のシーンにおける不一致はコベニにも言えます。
「黒枠のコマ」にてコベニの目の前で荒井は銃撃されました。
頭部を撃ち抜かれ、コベニの顔面には荒井の血液が付着しています。
対して「白枠のコマ」のコベニには荒井の血が付着した形跡がありません。
「拭いたのではないか」と思われるかもしれませんが血をこすった形跡さえありません。
シャツの襟に付着してたっておかしくない距離で銃撃されたはずなのに衣服さえなんともありません。
例はまだあります。
4話にてデンジがアキから魔人の概要を聞くシーンです。
デンジは1話の「黒枠のコマ」にて「悪魔には…死んだ人の体を乗っ取れるヤツもいるらしい」と明言していました。
魔人という呼称について知っているかはともかく、魔人の内容については知っていたわけです。
一方4話にてアキから「人の死体を乗っ取った悪魔…それが魔人だ」と説明を受けたデンジは「ふ~ん。え…あぁ、それじゃオレ魔人じゃね?」と要領を得ない返答をしていました。
魔人という呼称はおろか、魔人の内容さえ知らない人間のような反応です。
魔人という呼称を知らないで魔人の内容だけ知っている人間ならば話を聞いた時点で勘づくでしょう。
「ああ、それなら知ってるぜ」ぐらいの返答ができるものと感じます。
「そうか、オレはポチタの魔人なのか」ぐらいの感慨に浸った後で「違う。魔人は頭の形状が特徴的だ」とアキから否定される流れの方が自然に思えます。
要するにデンジは回想と思われる「黒枠のコマ」では魔人の内容を知っていたはずなのに現在を表す「白枠のコマ」においては魔人の内容を知らなかった可能性が高いと言えます。
またデンジはゾンビの悪魔から「さっきの雑魚悪魔が体を乗っ取ったのか…!?」というセリフを聞いています。
ゾンビの悪魔撃退後、マキマと黒服たちの「悪魔による乗っ取りの可能性は?」「ないね。乗っ取りは顔見ればわかるもん」という会話も聞いています。
仮に魔人という呼称を知っていたとするなら短時間に三度発せられた「乗っ取り」という言葉から魔人の内容を連想できないのは無理があります。
よって「白枠のコマ」におけるデンジが魔人の内容さえ知らなかったことは明白です。
以上のことより「黒枠のコマ」にて展開される物語は回想ではなくて「回想に見せかけているだけの現在とは全く別世界のシーン」であると考えられます。
「黒枠のコマ」は、「前の世界のシーン」
現在を表す「白枠のコマ」と「黒枠のコマ」は交互に読んでも物語が問題なく展開するしていきます。
「黒枠のコマ」にて表現されるシーンは時系列的に過去のものとして読んでも問題ないと考えられます。
では「黒枠のコマ」はどういう世界のシーンなのか。
2話にて「どうやってそんな体になったの?」とマキマはデンジに聞きました。
デンジは「飼ってた悪魔が俺の心臓になったんす」「俺の為にポチタが死んぢまったなんて…」と説明しました。
デンジの説明から得られる「デンジの心臓」の知識は「飼ってた悪魔」「ポチタ」でしかないはずです。
マキマはその後「キミの親友はキミの中で生きてる」とデンジに言い切っています。
「悪魔」でも「ポチタ」でもなく「親友」という呼び方です。
要するにマキマはデンジとポチタの関係性を既に知っていたのではないでしょうか。
また1話の「黒枠のコマ」にてデンジは「普通の暮らしをして普通の死に方をしてほしい」と自分が死んだら自分の体をポチタにあげることを約束しています。
後にこの言葉は「キミがポチタとしたのは約束じゃなくて契約だったんだよ」とマキマの口から明かされます。
デンジがポチタとした約束に関してマキマが明確にデンジから説明を受けたシーンはありません。
マキマはデンジの周辺情報をあまりに知りすぎています。
まるでデンジと会う以前にもデンジの口から会って聞いたことがあるかのようです。
マキマはつまり「黒枠のコマ」における情報と「白枠のコマ」における情報を共有することに成功しています。
加えてマキマはデンジとポチタが交わした約束に関して「キミがポチタとしたのは約束じゃなくて契約だったんだよ」と過去形で説明していました。
「黒枠のコマ」は「白枠のコマ」より「ずっと過去」にあることがわかります。
マキマの発言や態度、前提となっている知識の豊富さから「黒枠のコマ」は「白枠のコマ」よりも「前の世界」すなわち「一周前の世界」であると考えることができます。
1話のデンジは既にチェンソーマンだった
幼少期のデンジが路地を背にして部屋に向かって影が伸びているシーンがあります。
デンジの影をよく見てみると腕の輪郭がおぼろです。
チェンソーのようにも見えます。
当たり前ですが幼少期のデンジはポチタから心臓を貰っていません。
デンジ自身の体の中にチェンソーの要素はないはずなのです。
比喩として腕をチェンソーのように見せるのは本来不適切であるはず。
ではどういう場合に比喩が適切になり得るかというと「デンジが既にチェンソーマンの要素を持っていた」場合となります。
先ほど説明した通り「黒枠のコマ」にてデンジは死んだら自分の体をポチタに「あげる」よう契約していました。
「黒枠のコマ」は「一周前の世界」です。
要するにデンジは現在である「白枠のコマ」以前に死んでチェンソーマンとしての要素を手に入れていたとは考えられないでしょうか。
中身はデンジの体をもらい受けたポチタです。
「普通の暮らし」を送るために不要な「チェンソーマン」や「ポチタ」などの記憶と引き換えに「普通の人間」化したデンジの形をした人間だと考えられます。
ポチタに乗っ取られたデンジが世界のループを跨いで普通の人間になった様子が第1話の「白枠のコマ」のデンジとは考えられます。
現時点で可能な考察は以上です。
魅力的な伏線や謎が好評の『チェンソーマン』ですが、描写の不可解さからさえも物語の奥行きを見出せる作品でした。
第二部にて設定から一歩踏み込んだ、世界の成り立ちが明かされることにも注目が集まりそうですね。
※当記事はチェンソーマン好きの「高田夏虫」が投稿しております。
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